未来の建築が変わる!ZEH(ゼッチ)・ZEB(ゼブ)・ZEH-M(ゼッチエム)の最新トレンドと課題 

近未来の住まいは“エネルギー自給自足”が当たり前に? 

2021年の夏、東京では例年以上に厳しい猛暑が続き、エアコンの使用による電力消費がピークに達しました。結果として、電力不足が深刻化し、政府が節電を呼びかける事態に発展しました。このようなニュースは、エネルギー自給自足の重要性を強く訴えかけるものであり、その解決策として注目されているのが、ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)やZEB(ネットゼロエネルギービルディング)、ZEH-M(集合住宅版ZEH)です。 

カーボンニュートラルに向けた政策と相まって、エネルギー効率の高い住宅・建物が急速に普及しつつあります。しかし、この大きな変革にはデベロッパーにとって多くの課題も伴っており、導入が加速している一方で、技術的・コスト面でのハードルも依然高いのが現状です。これからの住宅市場はどのように変わっていくのでしょうか? 

ZEHとZEBの基本概念 

ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)とZEB(ネットゼロエネルギービルディング)は、それぞれ住宅とビルにおけるエネルギー自給自足を目指した概念です。これらは、建物自体が消費するエネルギーを極力減らし、さらに創エネ、つまり再生可能エネルギーを建物内で生み出すことで、エネルギーの収支をゼロに近づけることを目標としています。 

基本概要 

ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)とは? 

ZEHは、家庭で消費するエネルギーを削減するために、省エネ(断熱や高効率設備の導入)と創エネ(太陽光発電や蓄電池の設置)を組み合わせて、年間のエネルギー収支をゼロにすることを目指す住宅です。たとえば、太陽光パネルで電力を生産し、余剰分は蓄電して使うことで、外部からのエネルギー供給を最小限に抑えることができます。 

ZEB(ネットゼロエネルギービルディング)とは? 

ZEBは商業ビルや集合住宅において、ZEHと同様に省エネと創エネを組み合わせて、エネルギーの収支をゼロにする建物です。ZEBでは、建物全体でのエネルギー消費を抑えるために、スマートビルディング技術を活用したエネルギーマネジメントシステムが導入されることが多いです。太陽光発電、地熱エネルギー、風力発電などの創エネ技術が利用され、エネルギー消費を抑えるだけでなく、環境への負荷も最小限にすることが期待されます。 

ZEH-M(集合住宅版ZEH)の基準 

ZEH-Mは、集合住宅特有の基準が設けられています。集合住宅では、個別住戸と共用部のエネルギー消費をそれぞれ考慮する必要があります。特に断熱性能と高効率設備(LED照明、エアコン、給湯器など)が重要であり、それらにより廊下やエレベーター、駐車場の照明などの共用部分のエネルギー消費量削減が求められます。これには、自動制御照明システムや省エネエレベーターの導入が含まれます。太陽光発電システムを屋上に設置し、共用部のエネルギーを供給することが一般的です。余剰分の電力を各住戸に分配することも検討されます。 

政策動向と法改正が進めるZEH、ZEBの普及 

1. 国の政策目標とZEH、ZEBの導入推進 

日本政府は、カーボンニュートラルや脱炭素社会の実現を目指し、建築物の省エネ化を加速させています。これを支える政策がZEHおよびZEBの導入促進です。主な政策は以下の通りです。 

  • 2050年カーボンニュートラル目標: 温室効果ガスの排出ゼロを目指し、すべての新築住宅・建築物をゼロエネルギー化する方針。 
  • 2030年の省エネ基準義務化: 2030年までに全ての新築住宅・集合住宅を省エネ基準に適合させることが義務化される見通し。 

2. 補助金・インセンティブ政策 

ZEH、ZEBの普及を促進するため、政府や自治体は補助金やインセンティブを提供しています。特にデベロッパーはこれらを活用することで、初期コストを軽減できます。 

  • ZEH補助金制度: ZEH-M(集合住宅版ZEH)には1戸あたり約70万円の補助が受けられる。 
  • 自治体支援制度: 東京都ゼロエミ住宅補助金など、各自治体が独自の補助制度を設けています。 

3. 法改正の動向とZEH、ZEBへの影響 

建築物省エネ法が強化され、ZEHやZEBの基準が新築建物に適用されるようになります。 

  • 建築物省エネ法の強化: 2025年までに全ての新築建物にエネルギー消費性能の届出が義務化。 
  • 再生可能エネルギーの義務化: 太陽光発電システムなどの再生可能エネルギー導入が集合住宅に義務化される可能性もあります。 

4. デベロッパーへの影響と対応策 

デベロッパーにとって、ZEHやZEBへの対応は競争優位性を確保するための重要な要素です。 

  • 競争優位性の確保: 省エネ基準を満たした建築物を提供することで、競合他社に対して優位に立つことができます。 
  • コスト対効果の検証: 補助金や税制優遇を活用すれば、初期コストを抑えながら長期的にエネルギーコストを削減できます。 

課題 

ZEH(ゼッチ)・ZEB(ゼブ)・ZEH-M(ゼッチエム)の導入にあたり、多くの課題がデベロッパーや市場に存在しています。 

1. 高コスト 

初期投資として、断熱材や省エネ設備の導入には高額なコストが必要です。特に中小規模のデベロッパーにとっては、設備投資の負担が大きく、普及の妨げとなっています。ZEH-Mの導入が進まない一因として、全体の初期コストが高いことが挙げられます。 

2. 技術的な制約 

ZEHやZEBの技術導入は、建物の設計や既存の建物の改修において技術的な困難が生じることが少なくありません。例えば、既存の集合住宅では、太陽光発電システムを設置する屋根のスペースが不足していることや、外断熱工事が物理的に不可能な場合もあります。 

3. 市場の需要不足 

エコ住宅に対する消費者の関心は年々高まっているものの、実際にそれに伴う追加コストを負担できる消費者層は限られています。また、一般消費者にZEHやZEBの価値が十分に理解されていないため、普及が進みにくい状況にあります。 

4. 建築設計の柔軟性の制約 

ZEH、ZEB、ZEH-M基準を満たすためには、建物の設計段階から慎重なエネルギー管理が必要です。これにより、従来のデザインや構造に比べて、建築設計の柔軟性が制約される場合があります。 

結論 

ZEH、ZEB、そしてZEH-Mは、日本の持続可能な住宅・建築物の未来において非常に重要な役割を果たします。政府の政策支援や補助金制度により、普及は加速していますが、初期コストの高さ技術的制約が大きな課題です。特に、中小規模のデベロッパーにとっては、これらのコスト負担が大きな障害となっています。 

また、消費者側の理解や需要を高めることも不可欠です。エネルギー効率の高い住宅のメリット、特に長期的なコスト削減や資産価値向上などをアピールすることで、より多くの人々に選ばれるようなアプローチが求められます。 

今後は、デベロッパーや設計者が技術革新を進めるとともに、消費者に対してわかりやすくZEHやZEBの価値を伝えることが、普及の鍵となるでしょう。エネルギー自給自足の未来は、間違いなく私たちの手の届くところにあります。